太陽の基本
牙をむく太陽
変化の激しさという点からみると、
黒点が増えたり減ったりする現象はそれほど激しいものではありませんし、
画像を見てもわかるように地味な見た目をしています。
いっぽうで、コロナ質量放出の激しさは飛びぬけており、
画像を見てもあまりの激しさのために、何か異常なことがおこっている、
と宇宙や太陽にかんする知識がなくても不安になってしまうほどです。
・コロナ質量放出(紫外線)
右上にみえる白い爆発がコロナ質量放出。
太陽は観測の都合上、かくされている。
Courtesy of SOHO (ESA & NASA).
コロナ質量放出とフレア
目に見える光(可視光線)ではなく、目に見えない光、たとえば紫外線で観測すると、
太陽は爆発的なエネルギーをもっている星だ、ということがわかります。
じっさい、太陽では〈フレア〉と呼ばれる爆発が、小さなものであれば日常的におきています。
小さなフレアであれば、わたしたちの生活への影響は限定的です。
しかし、大きなフレアのばあいコロナ質量放出が発生し、生活に何らかの影響をおよぼします。
・太陽(紫外線)
紫外線で観測した画像を、
人間でも理解できるように処理したもの。
目で見える太陽がじっさいにこのような色をしているわけではない。
しかし、太陽のイメージとしては、この画像のように紫外線で観測されたものが一般的である。
Courtesy of NASA/SDO and the AIA, EVE, and HMI science teams.
わたしたちの生活への影響
太陽は、可視光線だけでなく紫外線や赤外線といった光も発しています。
しかし、太陽が発しているのは光だけではなく、
まえに述べたように〈太陽風〉とよばれるプラズマのガスをも発しています。
太陽風は、太陽から日常的に生じていますが、
コロナ質量放出が発生すると、強い太陽風が発生します。
その強い太陽風がすべて地球に向かうわけではありませんが、
仮に、その太陽風が地球にむかってぶつかると、
地球の磁気圏がみだされて〈磁気嵐〉が発生します。
磁気嵐はひじょうに強い磁力をもち、地球上の電力インフラなどを破壊してしまいます。
じっさい、1989年にはカナダで磁気嵐によりインフラが破壊され、
大規模な停電が発生しました。
また、破壊されたインフラを修復するために数か月の時間、数百億円の費用がかかりました。
スーパーフレア
カナダの磁気嵐を発生させた太陽フレアは中規模のものであり、
もっと大きなフレア、つまり〈スーパーフレア〉が起これば、
その被害は計り知れないほど大きくなります。
過去には1858年に巨大な磁気嵐が発生しており、その規模の大きさのために
〈キャリントン・イベント〉という名前までついています。
ただし、当時は電力インフラがほとんど発達していなかったために、
大きな被害は出ませんでした。それでも、電話局に異常がつぎつぎと発生し、
数多くの局が火事で焼ける、ということはありました。
仮に、インフラが発達した現在に、
キャリントン・イベントとおなじレベルの磁気嵐が起こったばあい、
そして、磁気嵐への対策を何もおこなっていないばあい、
地球上のさまざまな場所で大停電が同時に発生し、人工衛星はあいついで故障し、
インターネットだけでなく電話すらつうじなくなるほどの通信障害が起こる、
と考えられています。
・黒点(スケッチ)
キャリントン・イベント時の太陽の黒点のようす。
これを書いたのがイギリスの天文学者 R. キャリントン。
太陽から身をまもる
それでは、スーパーフレアにたいしてわたしたちは無力なのでしょうか。
いいえ、けっしてそうではありません。
わたしたちが適切な対策をおこなうことができれば、
スーパーフレアの被害を可能なかぎり小さくすることができます。
わたしたちにとっては幸運なことに、スーパーフレアが発生してから、
地球に太陽風がやってきて磁気嵐が発生するまでには時間差があります。
スーパーフレアが発生するとすぐに地球に光がとどき、それを観測できますが
(正確には、光の速さの限界があるので8分の差があります)
太陽風は地球に届くまでおよそ2日かかります。
つまり、スーパーフレアの発生に合わせて、
地球では磁気嵐から身をまもる対策をおこなえばよいのです。
それでは、その対策には具体的にどのようなものがあるのでしょうか。
・スーパーフレア(イラスト)
左は太陽、右は地球。
地球のまわりにある青いものが磁気圏。
Courtesy of NASA/SDO and the AIA, EVE, and HMI science teams.
計画停電
ほかの自然災害にくらべると、
磁気嵐は発生するタイミングをかなり正確に予測できます。
そこで、そのタイミングに合わせて計画停電をおこなえば、
スーパーフレアからの被害を小さくすることができます。
というのも、磁気嵐によって被害をより多く受けるのは、
電力がながれているインフラであり、
電力がながれていないインフラはそれほど被害を受けない、と予測されているからです。
すべての電力インフラをストップさせることはできませんが、大部分のインフラをストップさせ、
電力のながれていない状態で磁気嵐がおさまるまで計画停電をおこなえば、
被害はかなり小さくなるでしょう。
スマートグリッド
最近は〈スマートグリッド〉とよばれる、
情報技術を応用した電力インフラの技術革新の重要性がメディアでひんぱんに宣伝されています。
その技術革新は、電力インフラを効率化し、安定した電力を供給することをおもな目的としています。
しかし、スマートグリッドの目的はそれだけではありません。
スマートグリッドによって計画停電を安全におこなうための下地をととのえ、
スーパーフレアにそなえる、という目的もあります。
人工衛星をどうするか
地球上でおこなえるスーパーフレア対策はまだはじまったばかりですが、
必要な予算および時間と、ひとびとの合意とが得られれば、
じゅうぶん実現可能な対策です。それにくらべると、
宇宙空間でおこなえるスーパーフレア対策にはかぎりがあります。
宇宙飛行士にかんしては、スーパーフレアが起こった時点ですべての任務を中断し、
宇宙船に乗ってすぐに地球に帰還するようにすれば、
事故などにまきこまれて、宇宙飛行士の人命がうしなわれる、
という最悪の事態をさけることができます。
しかし、人工衛星にかんしては有効な対策がそれほどありません。
というのも、宇宙飛行士とちがって、
人工衛星は地球に帰還することができないからです。
磁気嵐のひどい部分を避けるようにする、という程度の対策はありますが、
小さなフレアならともかく、スーパーフレアでもその対策が有効なのか、
という疑問がのこります。