太陽の基本

  1. そもそも太陽とは
  2. 太陽は地球のガーディアン
  3. 牙をむく太陽
  4. これからの課題
  5. ジオエンジニアリング(補足)
ジオエンジニアリング
このページでは、補足としてジオエンジニアリングについて述べます。

「宇宙線と雲」のところで、 「地球にふりそそぐ宇宙線が大気をイオン化して雲の原料となるエアロゾルを増やしているため、 あるいは、宇宙線が地球の大気に直接的に作用し雲の量を増やしているため、 宇宙線の量が増えれば地球に発生する雲が多くなり、地球の気温が低くなる。 ぎゃくに、宇宙線の量が減れば地球に発生する雲が少なくなり、地球の気温が高くなる」 というスヴェンスマルク仮説を紹介しました。 ところで、もし、雲の量を人工的に増減させることができれば、 地球の気温がコントロールできるようになり、気候変動をふせげるのではないか、 という見とおしのもとに研究がすすめられている科学分野があります。 それが〈ジオエンジニアリング〉という分野です。
火山の噴火と地球の気候
大きな火山が噴火すると、数多くの火山灰が空高く打ちあげられます。 それらの火山灰はすぐに地表に落ちてくることはなく、 しばらくのあいだは大気中にとどまりつづけます。 火山の噴火の規模がある程度を超えると、 打ちあげられた火山灰は風にのって地球全体に行きわたります。 火山灰そのものに太陽光を反射する効果は、火山の近くでないかぎりはありませんが、 火山灰が雲の原料となるエアロゾルの役割を果たし、地球全体に発生する雲の量を増やします。 つまり、火山が噴火した結果として、地球の気温が全体的に低くなる、 ということがおこります。

人類の歴史をみても、大きな火山が噴火したあとでは、 収穫できる作物の量が、天候不順のせいで、 地球上の多くの場所で同時期に大きく減っていることが確認されています。

・ピナツボ火山(写真)
20世紀で二番目に大きな規模の噴火である、 1993年のフィリピンのピナツボ火山噴火。
この噴火の火山灰により、地球の気温は例年よりも約0.6度低くなった。
日本では冷夏となり、米の収穫量が激減した。
エアロゾルをばらまく
火山の噴火は現在の人類にはコントロールできません。 しかし、火山灰とおなじはたらきをするエアロゾルを大気中にばらまくことは、 いますぐにはできませんが、実現のめどがついています。

ただし、火山灰とおなじ物質をエアロゾルとしてばらまくと、 地球のオゾン層に重大なダメージをあたえたり、 酸性雨がひんぱんに発生して植物が枯れたりします。 したがって、火山灰とおなじはたらきをするけれども、 オゾン層を破壊せず、酸性雨を発生させない安全なエアロゾルの研究がすすめられています。
安全性について
このような情報を知って「ほんとうにジオエンジニアリングは安全なのか」 と心配するひとがおおぜいいることでしょう。 もし、ばらまいたエアロゾルが、 地表に落ちることなくつねに大気中にとどまりつづけたら、 それこそ地球はスノーボール・アースの時代をふたたびむかえることになります。

ところで『パラサイト:半地下の家族』でアカデミー監督賞を受賞した、 韓国出身の映画監督にポン・ジュノというひとがいます。 そのひとが『パラサイト』以前に、 海外の映画制作会社のもとで監督した映画に『スノーピアサー』という SF 映画があります。 その映画は、ばらまいたエアロゾルが大気中にとどまりつづけて、 地球がスノーボール・アースになってしまった未来が舞台です。

『スノーピアサー』ではさすがにエアロゾルが誇張されてえがかれているので、 その映画でおこったことが現実でもそっくりおこる、ということはありません。しかし、 気候変動によって1-2度上昇した気温を打ちけすためにばらまいたエアロゾルが、 そのまま1-2度だけ気温を下げてくれればよいのですが、 何らかのエアロゾルの副作用によって5-6度も下がってしまったばあい、 地球は大混乱におちいってしまいます。
兵器利用の可能性
かりに、ジオエンジニアリングがうまくいき、 エアロゾルが何の副作用ももたらさず、気候変動がひとまず解決されたとしても、 また、べつの問題が生じます。それが、 国家がジオエンジニアリングを兵器に利用するおそれがある、ということです。

ジオエンジニアリングの研究がより発展し、より精密になれば、 特定の地域にだけ雨雲を発生させ、 その地域の平均気温を下げることによって農作物の収穫量を減らすことも可能です。 たとえば、ある独裁国家が、弱らせたいと思っているべつの国家の地域に雲を大量に発生させ、 じわじわと国力をけずってゆく、という状況が考えられます。
ジオエンジニアリングの将来
このように、ジオエンジニアリングには実現にいたるまでの課題が数多くあります。 その課題のなかには 「人類がジオエンジニアリングによって地球環境に手をくわえるのは自然に反している」 と主張するひとびとをどのように説得するか、という課題もふくまれています。

しかしいっぽうで、生命はきわめてとおいむかしから地球環境に手をくわえてきました。 その最初の例は20億年前のシアノバクテリアでしょう。 シアノバクテリアが光合成をおこなうことで、 地球の大気には、いままで存在しなかった酸素がふくまれるようになったのです。 そうすると、いちばん自然に反しているのはシアノバクテリアである、 ということになるのでしょうか。なぜなら、 シアノバクテリアが地球環境に手をくわえた影響は、 人類とはくらべものにならないほど大きいからです。

ようするに、ジオエンジニアリングがすべてを解決する、 というのはあまりにも楽観的な考えですが、だからといって、 ジオエンジニアリングを気候変動の対策とはみなさない、とすれば、 そのことは人類が取りうる選択肢の幅をせばめることにつながる、ということです。

ジオエンジニアリングは、将来有望な科学分野であると同時に、 人類におよぼす影響がそれほどわかっていない分野です。 確実にわかっていることについては、おおよそ以上で述べたとおりです。 そして、ジオエンジニアリングについていっそう述べるならば、 それはあいまいな事実にもとづいて述べることになります。したがって、 ここでジオエンジニアリングについて述べることをいったん終わりにします。

・現在のシアノバクテリア(写真)
Paul Harrison, "Stromatolites in Sharkbay"
CC BY-SA 3.0,
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Stromatolites_in_Sharkbay.jpg